山猫・・・ある童話作家のタマゴの話12
近況その④・・・最近、目、耳が不調。髪がなぜか、あまり伸びなくなったようです。膵臓癌と診断されて今日でちょうど9カ月たちました。玄米菜食と自然療法で、まだ何とか頑張って生きています。
前回のヤマネコリョウタの話、いかがだったでしょうか。
今回はヤマネコのリョウタがなぜお医者さんになったのか、書いた童話です。
ヤマネコリョウタ
タカスギケンジ
まだ冬の寒さがのこる朝、ヤマネコのリョウタは、ほら穴の中で目をさましました。
「お母さん。おはよう。まだ寒いね」
「おきたのかい。顔を洗っておいで」お母さんは朝食のしたくをしながら声をかけました。
リョウタが外に出ますと、野原には春の花、タンポポやスミレやハハコグサが咲いています。すぐ近くのふたご山は、頭の上に白いボウシをかぶっています。すぐそばの小川でリョウタは、水を目の上にチョコンとつけますと、すぐにゴクゴク飲みはじめました。小川の水はきれいにすんでいて、リョウタの顔をうつします。
「やっぱり僕はまだヤマネコだなあ。早く人間のようになりたいなあ」リョウタはひとりごとを言うと、ほら穴に帰って行きました。
「お母さん。僕はいつ人間になれるの?」
「私たちヤマネコは、心から人間になりたいと思えば、いつでも人間になれるのですよ」お母さんネコは優しく言いました。その時です。
「ドゴーン。ドゴーン。ゴーゴー」
ものすごい音が、ほら穴の中にも聞こえてきました。
「なに。お母さん」
「なだれだわ。山の上の雪がものすごい、いきおいで落ちてくるの。その時、木や岩なんかも一緒に落ちてくるので、絶対に近寄ってはだめですよ」ヤマネコのお母さんは、リョウタによくよく言い聞かせました。でもこの時リョウタは見に行きたくて、うずうずしていたのです。
朝食後リョウタは遊びに行くと言って、ふたご山の近くまで行きました。山の上から落ちてきた雪は、木や岩をまきこみ、その流れた後は黒い土がえぐれて、ぶきみにひかっていました。また、落ちてきた木や岩や雪の中で、仲間の動物たちが、けがをしているではありませんか。
「クマさん。タヌキさん。サルくん。リスくん。どうしたの?」リョウタは心配そうにかけよります。
「みんなで、林の中でかくれんぼをしていたのだよ。急に上からいろんなものが落ちてきたのだ」とクマさん。
「とりあえず、ふたご山の間の湯に行くから、手をかしてくれ」とリスくん。ふたご山の雄山と雌山の間には、温泉がわいているのです。みんな、なだれで足や手やおなかに、ケガしていました。動物たちは何かケガをしたり、病気になったりすると、温泉に入って傷を治すのです。
「俺たちにも人間のようにお医者さんがいたらなあ」とサルくんはお湯に入りながら、しみじみと言いました。
「人間のお医者さん?何をする人なの」とリョウタが聞きました。するとサルくんは
「ケガをしたり、病気したり困ったときに、薬をつけたり治したりしてくれる人さ」
「僕たちの中にはいないから、僕たち動物はケガをすると、湯に入るぐらいしかないのだ」とリスくんも言いました。
「それじゃ僕。人間になれたらお医者さんになるよ。そうして山のみんなをケガや病気から守ってあげる」リョウタはこの時、人間になりたいと心から思いました。
リョウタはしばらくして人間に変わりました。お母さんも一緒です。まちに住み、人間の中にとけこんでくらしています。
「お母さん。人間は大変だねえ。学校があるし宿題もあるし。覚えることがいっぱいあるのだ。お医者さんになるためには、小学校から大学まで十八年もかかるのだよ」
「でも、山のみんなのためにリョウタが決めたことですよ。決めたことは最後までがんばってやるのですよ」
リョウタはがんばりました。人間にまざって高校入試、大学入試に合格しました。あっというまに月日はすぎて、リョウタは大学の医学部を卒業して、りっぱなお医者さんになりました。
リョウタは山のふもとに『ヤマネコ医院』をひらきました。そこには
―小児科と動物をしんさつしますー
と書いてあります。
医院では人間の子どものほかに、傷ついた動物たちにも、ちゃんとシンサツケンが配られるのです。キツネやタヌキ、サルやリス、多くのケガや病気した動物がやってきます。人間の子どもたちもおおよろこびです。医院では動物たちと友達になれるのですから。ただサルくんからは
「リョウタ先生。なんで、獣医にならなかったの。僕たち動物をしんさつするなら、人間のお医者さんよりも獣医さんでしょう」と言われるのです。するとリョウタは、いつもニコニコしているだけなのです。そしてみんなが帰ったあとに
「まさか、仲間の動物たちがお金の代わりに置いていく、ドングリや木の実や山菜では、薬が買えないからとは言えないなあ」とひとりつぶやくのです。
リョウタの『ヤマネコ医院』は山のふもとにありますから、傷ついた動物がいれば教えてあげてくださいね。
おわり
ある童話作家のタマゴの話13(9/2)に続く