山猫・・・ある童話作家のタマゴの話14

近況その⑥・・・

  1. 最近、癌のせいか、はたまた筋肉痛か、右足が痛い。階段の上り下りが少しつらい。
  2. 自然療法のおかげか、どんどん痩せて行った体重は少し戻った。
  3. 姉がヨモギを三日三晩煮詰めてヨモギエキスを作ってくれた。毎日飲んでいる。
  4. 最近はスギナ茶も毎日飲んでいる。どうかよくなりますように。ただ、飲みすぎると利尿効果が強いので脱水症に気をつけねば。

 

    ヤマネコりょうたとブルブル病

                       タカスギケンジ

 ヤマネコのリョウタはお医者さんです。山のふもとに『ヤマネコ医院』を開いています。ある日ヤマネコ医院にタヌキのポンタがやってきました。

「リョウタ先生。体がブルブルふるえて止まらないのです。みてください」ポンタはふるえながら、しんさつ室に入ってきました。

「まあ、そこに座ってください」ポンタを座らせると、リョウタはちょうしん器を取って、心ぞうの音を聴こうとしました。ところが、ポンタの座ったイスもガタガタふるえ、むねにあてた、ちょうしん器もブルブルふるえます。とても心ぞうの音を聴くことはできません。

 体温をはかろうとしましたが、体温計もブルブルふるえ、はかれません。そこでおでこに手を当てました。そして

「熱はないようですよ。いつごろからふるえだしたのですか」と聞きました。

「昨日は何ともなかったのですが、朝起きたらブルブルふるえていたのです。茶わんや、はしも持てないから、何も食べていないのです」

「なるほど。昨日何か、かわったことはありませんでしたか?」

「そう言っても、昨夜はおそくまで月を見ていただけです。もうすぐ満月ですから。私たちタヌキは満月にお祭りをします、おなかをたたいておどるんです。昨夜はその練習をしていました」

「なるほど。おなかをだして、たたいていたから、かぜをひいたのかな。とりあえずかぜ薬をのんでください」リョウタはかぜ薬をだして、ようすを見ることにしました。

しかし、ポンタのブルブルは治りませんでした。それどころか多くのタヌキやキツネが、体をブルブルしながら医院にやってきたのです。

 

「これは、伝染病かもしれないぞ。クーガー博士に相談してみよう」クーガー博士は、リョウタが大学の時の先生です。リョウタが医院を開いてからも、よくアドバイスをしてくれます。

「クーガー博士。おひさしぶりです。今、僕の医院に、多くのブルブルする患者が来ているのですが」

「リョウタくん。人間の病院にも多くのブルブルする人が来ているのだ」

「伝染病でしょうか」

「いや。こっちでもはっきりしたことはわからないのだ。ひとりひとり聞き取りをしても、その行動はまちまちなのだ。ただみんな昨夜はおそくまで月を見ていたようだ」

「月ですか?」この時リョウタはポンタの言葉を思い出しました。ポンタも月を見ていたのです。

「そもそも、体のふるえはなぜおきるか覚えているかね。我々ほ乳類は体温を一定に保つ恒温動物だ。寒い時に体をブルブルさせて振動で熱をおこすのだよ。しかし、季節は秋になったばかり、残暑のきびしいこの時分、寒いわけはないのだよ」

「患者をどうすればいいでしょうか?」

「やはり、あたためて栄養剤を与えるしか今はないね。とくにブルブルでご飯が食べられないものには多めにね」

「わかりました。クーガー博士ありがとうございました」

 リョウタはブルブルふるえているタヌキやキツネに栄養剤を与えると、家で安静にしておくように言いました。

 

 明日は十五夜です。夜空は晴れて雲ひとつありません。天の川が多くの星をきらめかせて上空をおうだんしています。もうすぐ、まん丸になるお月さまは、その光をススキの野原にあてて、野原は黄金の光る海になっています。ヤマネコのリョウタはその中で月をながめています。

「みんなお月さまを見て、ブルブルふるえるようになったんだから。お月さまを観察しよう」さすがに秋の満月の頃は多くの人や動物が、お月見をしています。でも、ブルブルふるえている者はいません。りょうたはもう一度ブルブルふるえる理由を考えていました。

「クーガー博士は寒い時にふるえると言われたが、こわい時にもふるえることがあるぞ。何かこわいものでも見たのだろうか」

 りょうたが考えていた時、野原の向こうがわで二匹の子ザルが言い争いをしていました。どうやら食べ物のことで言い争いになったようです。

「その木の実は僕が見つけていたのだぞ。かえせよ」

「ちがうぞ。僕がだいぶ前に見つけて熟すまで取っておいたのだ。だから僕のだ」

「いや、その前に僕のほうが見つけていたのだ。僕のだ」

「いや。その前だ。君の前に僕が見つけたのだ」二匹の子ザルはどちらもゆずりません。とうとう取っ組み合いのケンカになってしまいました。するとそこにリョウタの友達のサルの太一がやってきて二匹を止めました。

「半分ずつにすればいいじゃないか。こんなにあるのだから。それに今日は満月の前の日だから、みんな月を見ているのだ。わらわれるぞ」そう言って太一は二匹に言い聞かせました。一匹の子ザルは納得したようすです。もう一匹は納得できないようで

「お前なんか死んでしまえ」と言ってしまいました。するとどうでしょうか。言った子ザルはブルブルブルブルふるえだしたのです。ヤマネコのリョウタは急いでふるえている子ザルの所へ行きました。

「大丈夫かいケガはないかい?熱はないな。家に帰って安静にしておくのだ」リョウタはもう一匹の子ザルにも「ケガはないかい?」と優しく聞きました。

「僕は大丈夫です」そう言うと、ふるえていない子ザルは、ふるえている子ザルとつれだって帰って行きました。

「あ!リョウタ先生、すみません。サルのケンカにまで。ごめいわくをおかけします」太一が礼を言いました。

「いや、礼を言うのは僕のほうかもしれません。ブルブル病の原因が分かるかもしれないのです」

「今はやりの病気ですか?朝起きたらブルブルふるえているという。そう言えばそっきの子ザルもふるえていたな」

「まだ推測の段階だけど、ひょっとしてブルブルふるえていたのは、悪いことを計画したり、願ったりした者ではないかと思うのです」

「どういうことでしょうか」

「僕も大学のときに聞いたのだけど、僕たちは頭があるから頭で考えて、行動します。たとえば木の実を見つけると熟していたら食べるし、熟していなかったら待ちます。それでは頭はどうして考えるのでしょうか。それは心が考えさせるらしいのです。心が思い、頭が考え、体が行動する」

「そうですね。心が一番ですね。それとブルブル病とは」

「まあ待ってください。その心が悪いことを思ったならば、それを止める何かがあるのではないかと思ったのです。つまり、良心です。みんな良心があるのです」

「つまり、どういうことですか?」太一は見当もつきません。

「つまり、悪いことを思った時に良心がそれはやっぱりやめようとか、心をあらためさせるでしょう」

「それはそうですよ。悪いことを思ってすぐに実行したら、世の中おしまいです。ケンカで死んでしまえと言ったって、本当に死ぬことを望んでなんかいませんから」

「そうなのですよ。そこで良心の働きを高めるのは何か?と言うことなのです」

「患者はみんな前の日に月を見ているのでしたね。今も月が出ている」

「そうなのです。月の光が良心を大きくするのではないでしょうか。最初の患者はタヌキのポンタです。明日の十五夜のお祭りに、よく人間をだますじゃないですか。どうやって人間をだますか、悪いことを考えながら、はらをたたく練習をしていたのです。そこに月の光が当たり良心が大きくなり、悪いことをするのがこわくなったのですよ。そして体がふるえだしたのです」

「だから今回は、患者がよく人をだますタヌキとキツネだったんですね」

「そう、たぶん人間の患者も月夜の晩に何か悪いことを考えていたんではないでしょうか。そこへ月の光をあびて良心が大きくなり、こわくなり、体がふるえたんだとするとすべて説明できるのです」

「でも、人間の患者も多いのですよね。どうしてでしょう」

「きっと世の中が、さつばつとしたものになっているのでしょう。病院が人口の少ない街から無くなっていったり、本屋が無くなっていったり、今住みにくい時代だから。悪いことを考える人が、だんだん増えているのかもしれません」

「どうしたらいいのでしょうか」

「手を取り合うことだと思います。生き物は一人では暮らせないのだから。みんなで手を取り合ってあらそいのない世界になれば、ブルブルふるえる者もいなくなるでしょう」

「では今ふるえている者はどうしたらふるえが止まりますか?」

「せっかくお月さまが良心を大きくしてくれたのだから、もう悪いことはしない。悪いことを計画しない。良いことをする。仲直りする。そうすればひとりでに治るのではないかと思います」リョウタは患者に自分の考えを言いました。すると患者のブルブルは止まったのです。そのことをクーガー博士にも伝えました。

 

 今日は十五夜です。毎年この日はタヌキやキツネにだまされた人間がいます。そのためお巡りさんは大忙しです。ところが、今年はタヌキのタイコの音やキツネの炎は見えますが、誰もだまされた人はいませんでした。また、空き巣や泥棒などの被害もなく、みんな安心してお月見をしました。

 

 さて、そのお月さまですが、月の上でウサギがこんな会話をしていました

―太陽の光を反射する機械が少しこわれているぞ。これでは月の光が地球にとどかないー

―今、機械をなおしました。太陽の光を地球に反射させます。あ、光が大きくなりすぎましたー

―まあ、たいしたことはないだろう。光が増えて少し優しい生き物が増えるかもしれないがー

おしまい

 

            ある童話作家のタマゴの話15(9/16)に続く